7月 14 2014
遺産相続と株式
「会社の代表取締役であり、大株主でもある父が突然、死去しました。対立する弟が、株式の相続を主張しています。遺言はありません。どうすればいいでしょうか?」
このような、遺産相続と株式の問題は、とくに中小企業を経営されている方が死去された場合に表面化します。
たとえば、典型的なケースを例に、ご説明したいと思います。
登場人物:父、母、長男、次男
A株式会社(発行済み株式1000株) 取締役は父・母2名。
父:A社の代表取締役であり、800株を所有。
母:A社の専務取締役。A社の200株を所有。
長男:営業部長。
次男:経営方針や処遇を巡って父・長男と対立し、A社を退職。
このような状況下で、父が遺言を遺さずに、死去した場合、大きな問題が発生します。
それは、父が所有するA社の800株と代表取締役の地位です。
A社の800株は、法定相続分により、母が400株、長男200株、次男が200株を相続します。
ただし、遺産分割によって分割しなければ、800株を母・長男・次男が共有することになります。
そうすると、対立する次男が、遺産分割に関して自分の主張を曲げない、などの事情がある場合には、遺産分割の成立が長引く場合があります。
そのため、父の死去により、すばやく株主総会が長男を取締役に選任する必要がある場合には、800株を共有している次男との権利関係が問題となります。
会社法は、遺産分割未了の場合、株主として権利を行使する者を一人決めて、A社に通知しなさいと定めています。
そして、「権利行使者を一人決める」場合、多数決でよいと解釈されています。
したがって、母と長男が多数決により、権利行使者を長男と定めてA社に通知して、株主総会を招集し、株主総会にて長男を取締役に選任することになります。
以上のように、A社の代表取締役・大株主が死去すると、対立する相続人がいる場合、取締役が決まらないという、大きな問題が発生します。
そのためにも、事前に事業承継や相続が発生した場合に備えて遺言により株式の帰属を決めるなどの準備が重要、といえます。